校長のつぶやき(78)本校が訴求する観点…人口が縮小する社会を眺めて将来を考える


掲載日:2023.06.16

1.グローバル化教育の必要はこれまでとは違う理由から

◆これまでとは違う理由で、グローバル化教育を考えるべきと考えています。5年後から人口が減少し始めると予想されていた日本。その前倒しの人口減少で経済規模も縮小していきます。10年後のGDPは20%以上の減少になるという予想(国際戦略問題研究所の津田慶治氏)もあります。

◆日本は国の内外で、あらゆる面でこれまで以上のグローバル化で生きていかねばなりません。国の活力を保つためにも、個人の生きる力の確保のためにも、グローバル化への対応力の教育がこれまで以上に重要でしょう。

2.自己実現は人口が減る社会の中で

◆2022年の出生数がついに80万人を割り込んだというニュースは衝撃でした。今の22歳と比較すると約3分の2です。6月3日には出生率が1.26というニュースも流れました。世界の先進国のほとんどで出生率の低下が進んでいますから、出生率が群を抜いて低い日本は確実に人口縮小に向かうでしょう。政府が出生率の回復を目指して政策を打ち出していますが、年月のかかることです。来年、再来年に社会が変わるわけではありません。

◆これからの世代である中高生は、人口が減っていく社会の中で自己実現を考えていくわけです。ですから、減少していく現実を眺めて社会の変化を予想し、変化の中での働き方や生き方を考えることが大事です。そのためにどういう力をどうやって付けるのか…を冷静に、しかし、これまでの考え方に照らしてみれば大胆と思えることでも、考えてみるべきでしょう。

3.予想すべき国内の就労環境の変化

◆国策でのインバウンドの「留学生30万人計画」(2008年)が始まって15年。コロナ前の2019年度で留学在学者(母国の高校以上を卒業して日本に留学している学生)が30万人を越えました。一方で、日本の子どもたちのためのプログラムは小さいものです。これまでの大人が経験してきた社会の変化以上に大きな変化にさらされる中高生にとって、グローバル化への対応力の育成はかつて以上に必要なのに、例えば、「トビタテ!留学JAPAN」は、留学生30万人計画に5年遅れて2013年に決定され展開されてきていますが、30万人計画と比べると規模も全く小さい。中高生は、自分たちを待つ未来を考えることが本当に大切です。

政府の最近の政策を、自分に関わる事として読み解くことが大事です。3つ挙げてみます。

◆1つ目は、
……国内の就労者に、「中核外国人材」と呼ばれる人々の増加が見込まれること。2019年春に入国管理法が改正され、日本の高等教育機関を卒業(修了)して日本に就職する「中核外国人材」の就職分野制限がほぼ撤廃されました。また、在留ビザの継続も易化しました。これによって、卒業(修了)後の就職希望者の在留許可を30%から50%に増やすという見込みです。現に、2019年度の卒業(修了)後の進路は、日本国内での就職は35.6%、国内での進学は25.3%(日本学生支援機構の調べ)です。

◆2つ目は、
……2023年2月に政府が決定した「高度外国人材」の獲得の方針です。世界各国は高度外国人材の獲得によって自国の産業を支え活発化させる動きがあり、日本もそれに対抗するためとしていますが、高度な専門職として入国就労が認められ長期在留の許可も容易になるという改正です。日本は少子化の進行で高度外国人材の受入れを加速しない理由がありません。これまで日本型雇用で主流だったメンバーシップ型が、今年はジョブ型雇用が急増しました。

◆3つ目は、
……いま、政府が検討中ですが、熟練外国人の在留資格の緩和です。外国人労働者を受け入れる「特定技能」という「在留資格制度」での「2号」が職業のほぼ全領域で認められます。「特定技能2号」者は即戦力の「労働者」で、長期の滞在、家族の帯同が認められます。在留年限と就労の制限が厳しい「技能実習生」ではありません。即戦力の求人が広く国際化できることになりました。まさにこれもジョブ型雇用でしょう。もし、国内で経営が完結する分野の事業ならまだしも、海外との取引に関係する分野でなら、出身国のメリットが仕事に活きるわけですから、ここでもポスト競争でのグローバル化が進むと考えるべきでしょう。

特に、この3つ目は、6月10日の日経新聞第一面の報道で詳しく取り上げられていました。「国は期間限定だった外国人労働者の受け入れを、永住に道を開く長期就労型に転換する。」「国立人口問題研究所によると、2020年で約7500万人だった15歳~64歳までの生産年齢人口は2050年に約5500万人まで減る。…ワタミの渡辺美樹会長兼社長は『(長期就労拡大で)店長やマネージャークラス働いてもらえる。大きなプラスだ』ととらえる。」とありました。

◆人口減少による人材の確保で、高度外国人材、中核外国人材、特定技能人材、それぞれの層で実質的永住化が進みます。実質的に就労適性を担保した移民政策であるという見方もできるわけです。

4.興味をもつこと

◆日本の近未来は、少子化の急激な進行での国際化と併せて、AIやICT、ロボットと自動化の加速度的な発達とその浸透で激変します。誰もが経験したことのない未来社会を迎えることは必至で、必要とされる力を身に付けるための時間と場・機会への投資が必要です。

それを考えるには先ず、自分の人生をどのように生きるか、具体的には見えなくても、どんな風に働いていたいのか、大きく変化を続けていく未来社会の中でどんなふうに自己実現するのかを考えてみることです。

◆今は中高生でも、社会に出れば最低でも半世紀近くは働き続けます。その長い、長い期間を見渡すことは難しいですが、少なくとも、いま社会で起こっていることの何かに興味を持つことが重要です。いま起こっていることは、未来への課題であったり、未来に必要なことであったりするからです。それに興味を持つことが、実社会での自己実現に向けたプロセスの第一歩です。そして学習への動機と必然性になります。「学びを社会に繋ぐ」と六浦中・高が訴える理由はそこにあります。

◆一つの問題の解決には様々なアプローチや方法があります。つまり、同じ問題でも学問分野によっては取り組み方が違います。例えば、農業…受粉で活躍するミツバチが最近減っているという問題があります。ある農薬が原因と分かり始めてきました。では、農薬を研究するのか、その農薬の規制の方策を考えるのか、あるいは、ミツバチの代替生物を探求するのか…等とアプローチは多様にあるわけです。

◆興味を持った問題にどのようにアプローチするのか、関りたいのか、その関わり方への関心度合いで、学ばなければならない分野や準備しなければならない知識に関係する教科や科目が見えてきます。興味を持った社会問題や課題に対して関わりたいと思う方法を通して、必要な基礎的な学びをする教科や科目がはっきりします。高校で選択科目を決める時、好き嫌いや得意不得意が支配しがちです。それは間違いとは言えませんが、学びの掘り下げ、学びへの意欲づけを考えると、先ずは、自分の興味を引く社会問題や課題は何かを考えることが大事です。

5.理系は…? 文系は…?

◆科学技術立国の日本です。理系志望は、興味をもった事柄に対して関わりたいと思う分野では日本のどこの大学でどういう学びや研究があるのかをしっかり調べることができます。それが自己実現へのアプローチの第一歩です。そして、理系の学びでの特徴は、使う言語の違いは関係ないこと、研究対象はどれも世界で共通の知識であること、研究内容それ自体がグローバル化への対応の手段とルートになることです。共通言語の英語は自然についてきます。しっかりとした研究ができることが、自己実現への重要なポイントとなります。

◆文系も、理系と同様に、興味をもったことで研究ができる大学を調べれば良いことですが、理系とは違いがあります。世界の経済活動がグローバル化で繋がってきていることからの違いです。文系の場合は文学以外、半世紀前の時代よりも、研究対象の事柄が国際的な関係や法律に多く絡んでいたり、国と国同士の関係についての理解が必要だったりすることが多くなっています。学びや研究の中では、歴史的にまた地政学的に国際関係の知識を取り扱わなければならないことが多くなりました。

◆したがって、文系の場合、進学する大学を日本国内に絞らず、国外に広げて考えることが過去と比較できないくらい重要になってきています。留学での正規進学です。アメリカのUCLAは海外からの留学生が20%弱で出身国は100カ国を超えます。そして、経済発展で世界と深く繋がるアジア圏ともなれば、例えば、マレーシアのTaylor’s University(本校は推薦のルートがあります)は英語基準の大学で、学生の40%が世界中の国々からの留学生です。国境を越えて自国との関係などを踏まえながら学ぶという環境です。

◆人口が縮小しても社会は営みを続けます。日本の10年先はこれまで以上に海外との経済交流が深くなるでしょう。海外での営業活動の比率が国内よりも高くなる企業が増えるでしょうが、一方で、国内生産、国内製造の力をもっと強化することも求められます。海外での活動でも国内の活動でも、そのいずれでも、日本の企業だから日本人を、また、日本国内のオフィスで日本国内の工場だから日本人を…が変わります。人口が減るからです。「3.予想すべき国内の就労環境の変化」から、予想は間違いではないでしょう。

6.浸透が進むAIやGPT、ロボットと自動化で変わる社会

◆AIやChatGPTなどのAIGPT、ロボットやRPAが浸透する社会を考えると、中高での新たな学び方では、広い視野で「知(情報)」の所在する分野・領域を認識できるようになること、認識は浅くても、それはだいたい何であるのかというインデックス的知識を身に付けることが重要です。

◆中高生のうちは、理系、文系を問わず、科学や技術、社会学などの学問領域を限定せず、芸術や音楽、基本的なデータサイエンスやプログラミングなども学ぶことが大事です。将来は、それらが統合されたような仕事に就くことがますます普通になるでしょう。

◆その上で、理系志望では、細かく専門に特化した仕事に就く人材が求められることも考え、社会にある課題や問題に目を向け続け、将来の生き方に関わる学びのルートを考えることが大事です。文系志望では、サービス業での仕事の多くがAIGPT、ロボットやRPAに取って代わられていくでしょうし、国内の就労環境のグローバル化が進みますから、将来への考え方によっては、文化の壁や国境を越えて、大学時代から本格的に異文化や多文化交流のグローバル環境で学んでみようとする気力も大事でしょう。とすると、その気力は中高時代に身に付けるしかありません。特に文系志望では、変化する社会を見つめ将来への学びのルートを国内外に広げて考えてみるべき時代が到来しています。

◆世界の発展途上国のほとんどの国は、経済発展を目指して国をあげて、個人的にも社会的にも先進国に学んできした。親族一族で子どもの留学学費を準備し、国際的な学習環境を与えているという話はよく聞きます。それは国づくりにも貢献する国際間の人流も形成してきました。その逆が、これからの日本です。豊かだった社会が縮小していくわけです。未来に向けて個人は、国内外のグローバル化に対応することが必要です。文系志望者にとっては、将来の職種によっては、国内の就労環境を考えれば、これまでの国内中心の視野で自己実現を考えるだけでは力不足になるということもあり得る時代になります。

7.人口減少を真摯(しんし)に考えること

◆人口が減少し、経済活動や就労環境が変わり続けていくでしょう。しかし、恐れることはありません。中高生の学齢期で、感受性が柔軟なうちに、万能感が強いうちに、広く視野を拡げて自己実現の可能性を求めていくことです。新しい可能性が見えてきます。

◆関東学院六浦中学校・高等学校は、生徒が在学中にいろいろ考え、いろいろチャレンジし、いろいろ経験できるプログラムや機会を準備しています。卒業後の進路選択に力強く役立つ英語力、コミュニケーション能力を育成するカリキュラム、アメリカの高校卒業認定が与えられるDDPなどのオプション・プログラムも持っています。そして、選択制グローバル研修や日常の学びでの様々な取り組みは、人口縮小の社会に向かう備えのために視野を拡げ、新しい気づきや発見を学びの動機にすることを狙いとしています。

(…ただし、その学びは、決して利己的ではなく、キリストの語りかける「自分を愛するように隣人を愛する」精神の上に立って、学びとして義とされ意味を持つ学びです。)