校長のつぶやき(111)新しい、キャリア形成観


掲載日:2025.10.18

隣の小学校のオープン・スクールでのこと。説明会にご参加の保護者の方から帰り間際にいただいた言葉です。「(小学校の)HPに書かれていた校長先生の言葉で、『子どもが生きる時代は予想を超える変化の時代・・・教育とタイムライン的意識』というのが刺さりました。時代が大きく変わること、子どもの教育を考える中で落としていました。自分の経験はあてはまらないですね。」

以前に勤めていた学校法人立命館で、2000年に大分別府に開学した立命館アジア太平洋大学(APU)と附属高校の接続(高大連携)の仕事にかかわっていました。開学当初から7年間でしたが、その間に自分の教育観、キャリア形成での進路観が大きく変わりました。

これまで、「この人は、何を思って大きなことを言っているんでしょう。」と言われることも多々ありましたが、自分の中に占めるようになった新しい教育観は今日まで揺らがず、むしろ強まっています。「予想を超える変化の到来とそれを見越した教育環境のタイムライン的思考」。

詳しく言えば、それまでの「安定志向」でのキャリア形成の考え方が必ずしも支配的な共通の価値観ではなくなる。未来では「国内グローバル化」が間違いなく進み、グローバル化に対応できる「柔軟志向」でのキャリア形成の考え方になる。進路選択では、適宜で適時に「グローバル経験」と「専門性」の育成を併せて考えるべきだという考え方です。2000年の電撃でした。

そして加えて、これからの生成AIです。初等・中等教育では知識を吸収する学びは必須ですから誤解を招きかねませんが、これまでのように記憶力や計算力に重きを置く教育観ではない教育観での「真の学力」。これを考えることが必要になるでしょう。人工知能学会の会長の栗原聡博士によれば、いずれ、「AIにやってほしいことだけを伝えるだけ」になる。「DXを活用する主体が人からAIにバトンタッチすることになり、人の役割はデジタルインフラを活用することではなく、デジタルインフラを活用して、「何をしたいか」を考えることに集約される」社会になる・・・これまでにないファクターが入ってきているのです。

じわじわとその進行を感じる国内就労環境のグローバル化。その社会にあらたに別の大きな変数が加わる。新しいキャリア形成観が必要な時代に突入しています。「安定志向」での共通の価値観は、未来から見れば、さほど支配的なものではなかった…となる? 今までとは違う次元で到来する未来と、自分の夢や適性との関係で、一般論ではなく「自分事」で、「個」としてのキャリア形成の進路観を持つ必要が高くなってきています。

開学当時からAPUは、毎年世界90カ国1000人規模での国際生が、日本企業の寄付からの奨学金を得て入学してきました。(この数年、関東六浦からの進学者も増えています)

入学式は一線級の経済界の方も招かれ、民族衣装でキャンパスがカラフルに染まり、さながらオリンピックの閉会式のような雰囲気。国際生は母国での日本企業のプレゼンスや活動に、あるいは日本文化の魅力と可能性に魅せられて入学する。ゆくゆくは母国と日本の架け橋的存在として、日本の国内外で活躍することを夢みている。自分のキャリア形成は母国の発展に繋がる・・・と、異口同音に語る。そういう学生がなんと多いことか。

25年前です、大分別府だから首都圏では気づかない。じわじわと始まった国内グローバル化は、いま全国で大いに注視すべき現実となっていますが、2000年当時、日本国内での新たな教育環境で、私は一私立学校の一教員の責任でかかわるのではなく、中高生の視野を如何に拡げ、何を見つめて学びを進めるのかということを普遍的に知らせる義務がある、そして実践として教育を進める責任がある・・・と感じました。それがこの12年、関東学院六浦での実践の土台でした。

語弊があるかもしれませんが、普段、「学習」とか「進路」とか聞けば、見るところは成績と足もとになりがちです。それは必要な観点です。が、立つべき足もとを極めようとするとき、近視眼的に内巻き的に思考だけでは不充分なのです。視野を拡げて日本と世界、未来を眺め、変わる社会の中でどう生きるかを考える。APUで見た国際学生の貪欲さが、いまの日本では逆に、日本の中高生に強く必要なのではないでしょうか。必要があれば国外で学びを進めることもありでしょう。もちろん、選ぶ進路にはいずれも、確かな「自律性」の軸を持てるかどうかが、これがとても重要になります。

2019年3月に卒業してハワイ州立大学機構のカピオラニ・コミュニティ・カレッジに進学したYさん。成績優秀で奨学金を得てハワイ大学マノア校、そして大学院に進学しました。大学院を修了したとの連絡が入ってきました。マノア校に進学した時に送られてきたメッセージが六浦中・高のHPの卒業生の言葉に掲載されています。「‥‥Ultimately, what I want to tell you the most is that you should try to find what you really want to do and work hard to reach the goals you have established. Even though getting advice from others is crucial, you are the only one who makes your decision right or wrong. ‥‥ (一番伝えたいことは、自分が本当にやりたいことを見つけ、立てた目標を達成するために努力すること。人からアドバイスを得ることは重要でも、自分の決断が正しいか間違っているかを決めるのは自分自身です。)」

最後にこれもまた誤解を生みかねませんが、大学での学びは、VUCAな未来への備えです。理系以外ではますます一昔前以上に具体的で実利的であるべきです。人口減少と生成AI、IoTの浸透で大きく変化する未来社会。そこで求められるのは、「自律性」や「主体性」、それらが裏打する「創造性」です。それらの基礎力を六浦中・高は育みたい。もちろん、「自律性」や「主体性」を確かで堅固なものにするには、広い知識へインターフェイスする力と確かな基礎学力(アカデミック・スキル)が必要です。それも鍛えたい。2026年度へ向けて学校は動いています。

文中の*:『AIにはできない』栗原 聡 著(角川新書2024年11月10日)P.65