校長のつぶやき(84)海外経験は内なる変化への経験


掲載日:2023.10.19

56名!

驚いています。これは、コロナ禍の反動なのか、いや、社会の閉塞感の打破の気持ちなのか。10月上旬現在、本校中3生から高2生までの生徒で、海外に出て一定期間正規の学校に学ぶ生徒数は、10月までに帰国した生徒が14名、現在留学中と留学手続き進行中の生徒が合わせて42名です。2023年度は留学の出入国生徒合計数は56名となりました。さらに増えそうです。中3から高2までの在籍者数は608名なので、現在の中3から高2までの生徒の9.2%が海外での学校生活経験をすることになります。おそらく、神奈川県内でもこの数字、統計的には希有の学校だろうと思います。

2014年の入職当時は年間で数名でした。関東学院に入職して今年で10年目。生徒の視線の高さを感じるようになりました。海外への短期と長期の留学はこの数年で大幅に増えました。社会のニーズを考える教育として、在学中の海外留学の奨励と推進、出口として英語圏に加えてASEANを視野に入れた大学進学のルート付けを進めてきましたが、徐々に教育の特徴となってきていると思います。否、そうではなくそれ以上に、各家庭における考え方…社会の目まぐるしい変化と未来への備えでの学びについての考え方の変化でしょう。本校のような学校は東京には少なくありませんが、神奈川では稀な学校の一つだからかもしれません。

本校は、日本では経験できない「非日常」の経験を奨励しています。もちろん、その生徒の気持ちや考え方によりますから絶対視しているわけではありません。しかし、留学から帰国すると生徒は成長した自分自身に必ず気づく…これが共通の特徴です。また、その成長をこれからの生活へ活かしたいと異口同音に語ります。大きなアドバンテージでしょう。一年間の留学は授業料での配慮がありますので、機会があるならチャレンジしてほしいものです。

帰国した生徒との校長面談(全員必須)で、次のように語った生徒がいました。

留学に出る前は、自分で何かを決めることが苦手だった、避けていた、周囲に頼っていた。何をするにも周囲に合せるか、考えずに従うか…。ところが、留学先では全てを自分が決めなければいけないという環境で鍛えられた。誰も答や指示をくれなかった。何をするにも自分の判断が強く求められた。考えるようになった。日本に戻って留学前の自分の弱点や特徴が分かり、自分で決めなくても過ごせるような日本の社会でのんびりしていていいのかと思った。帰国して今は、何事も自分で決めようとしている。家族も自分が大きく変わったと言っている…云々。

また別の生徒は進路について語りました。大学進学で自分の目指したい学系で考えると、日本の大学で学ばなければならないという必然性があるだろうかと考えるようになった。同じ人間社会でも考え方や捉え方が大きく違うことと、グローバル化がますます進むことを考えると、もう少し深く掘り下げて進学先や学ぶことの中味を検討すべきだと思った。

帰国した生徒と話すのが楽しみです。これからの社会、子どもたちは少なくとも半世紀、50年間は働き続けることになります。目まぐるしく変わる社会で、つねに自分自身を更新する「力と術」を身に付けていかなければなりません。中高はそのためのステージでもあります。

2022年、経済産業省は「未来人間ビジョン」を示しました。その中の「仕事で求められる能力の変化について」では、かつての「注意深さ」や「責任感・真面目さ」「信頼感・誠実さ」という要素への高い評価は鳴りを潜め、2050年には「問題発見力」「的確な予測」「情報収集」「客観視」という要素が挙げられてきています。もちろん、責任感や信頼感という観点が低く評価されるということではないでしょう。それらが重点になっていた時代から前進し大きく変化して、周囲の問題に気付く力、そして解決していく力が普通に求められるようになってきたということなのでしょう。

ですからどこで何を学ぶにしても重要なことは、気づきや発見、問題の解決に向かって前進する主体性となるでしょう。そんな意味でも海外での学びと生活の経験には大きなメリットがあると言えます。(…もちろん、その他の諸活動にも気づきと発見につながる仕掛けが多々ありますが。)