高等学校 第69回卒業式


掲載日:2021.03.09

高等学校 第69回卒業式

3月6日(土)、朝から小雨がちらつく空模様の中、高等学校の第69回卒業式を執り行いました。

コロナ禍での実施のため、在校生は出席せず、保護者の皆様も人数を制限しての式典になりました。参列できなかった保護者の皆様向けにライブ配信を行い、卒業生の旅立ちを皆で祝福しました。

教職員一同、卒業生の健康と活躍を心から祈念しております。おめでとうございます。以下に校長の式辞を全文掲載します。

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「背筋を伸ばして遠くを見なさい。」

皆さんは今、関東学院六浦高等学校の教育課程の全てを修了し卒業したことを、ここに宣言します。
教育課程の全てとは言うものの、最も大きく成長する高校時代の最後の1年をコロナウィルス感染症のパンデミックに奪われてしまいました。
私たち教職員も皆さんと同じく、焦る気持ちの毎日でした。ICTを活かし「学びを止めない」を掲げ、授業こそ先駆的に実践してきましたが、しかし、学業以外の高校生活最後の諸活動がほとんど停止させられるという状況は、本当に無念でなりませんでした。動きが止まる。社会全体の営みが止まる。時間が奪われる。こうした中で迎えた卒業式、私たちはこの日々と皆さんを忘れません。

間もなく、多くの人々が犠牲になった東日本大震災から10年目を迎えますが、今から98年前の1923年、9月1日には関東大震災がありました。関東一体での死者と行方不明者は推定で10万5,000人、東日本大震災の5倍近くの人が犠牲者となった災害でした。
その関東大震災からわずか半年後の1924年3月9日。関東学院の第3の源流、私立中学関東学院の第1回卒業式が行われました。地震で校舎は壊れ、教職員が3名亡くなりましたが、幸い夏休み中で、校舎倒壊での生徒の犠牲者はありませんでした。地震から半年、後片付けも進まない中で、別の学校を借りての卒業式でした。

誰もが大きく傷ついた震災の中での卒業式。初代学院長の坂田祐先生の式辞の中には、次の言葉があります。
「人になれ 奉仕せよ。人になること、すなわち人格を完成することは、大変難しいことです。実行や実現が極めて難しくても、その理想に向って進んでいくこと、たゆまず努力をすること自体に価値があります。皆さんは全生涯を通して、理想の実現に努力すべきです。たとえ、この世の仕事に失敗してもよろしい。皆さんが自分の人生観の基礎をしっかり確立し、価値ある生涯を送ることができたなら、それは真の、本当の成功です。」

では、私たちは、私たちのこの時代をどのように捉え、高校卒業のこの日に、何を覚えるべきなのでしょう。

3学期の始業式に、「歴史の踊り場」にいると語りました。2018年出版の『大正=歴史の踊り場とは何か 現代の起点を探る』という本を紹介し、「困難の中に新たな流れが生まれる」と語りました。メッセージはホームページに残していますが、「歴史の踊り場」の踊り場とは、階段の踊り場からの借用です。方向転換や一休みする場、転んだ場合の転落防止のための場です。
あらためて今日は卒業への激励として、「困難の中に新たな流れが生まれる」ということを伝えたい。だからこそ、苦しいことがあっても、いまは「踊り場」にいると捉えて、決して諦めてはいけません。皆さんには、「背筋を伸ばして遠くを見なさい。」という言葉を贈りたいと思います。

今年度大学に進学した学生は大学キャンパスにはほとんど通っていないというニュースが何度も流れています。専門的な分野の基礎とは言っても、高校とは違うレベルの勉強を一方的に一日中on-lineで配信されてくる授業ばかりで、大学生活の意義が分からないという声も多かった。その通りでしょう。しかし、そこにフォーカスする思いだけに振り回されてはいけません。

皆さんも収束の見えないコロナ禍の影響を受けながら、それぞれが歩み出していきます。しかし、皆さんは関東学院六浦で、新しい時代の到来を見据え、常に変化する未来を意識することの重要さを語られてきました。卒業後、身近なところで、予想以上の混乱や動揺があるかもしれません。しかし、いまは「歴史の踊り場」にいるということを覚えてほしい。背筋を伸ばして遠くを見てほしい。これまで経験しなかった大きく変わる未来が皆さんを待っているからです。

皆さんの人生はこれからです。いま起こっている困難や変化の兆しは、コロナ禍の影響以上にAIとICT、そしてIoTなどの技術の発展による大きな変化と、気候変動の抑制に向けての社会インフラの大きな変動の渦を予期させます。いま、私たちの時間と自由を奪っているコロナウィルスのパンデミックは確かに大きな出来事です。しかし、それ以上に社会は、世界は、大きく動きだしています。

2月26日の日本経済新聞の第一面は、伊藤忠商事と世界最大手のフランスの産業ガスの企業が、2020年代半ばに国内で、燃料電池車などの普及を加速させる液化水素のプラントを稼働するという記事でした。その10日前の2月17日には、東芝、Panasonic、トヨタ自動車、ENEOS、岩谷産業の例を挙げて水素供給網の整備が各所で着々と進んでいるという記事がありました。
規制の緩和が進み、固まった社会の構造が砕かれる段階に入ったと言えるほどの大きな変化が訪れることでしょう。しかし、これは一面です。ですから、変化の先を見つめて、流れの中にただ巻き込まれるのではなく、主体的に生きることを皆さんは忘れてはいけません。そのために、自ら学び続けてください。
関東学院六浦での学びの態度を、日本中、世界中、どこへ行っても活かしてください。今日一緒に旅立っていく友人と、同窓生として互いに心を繋ぎ、進む道に違いはあっても、共有する思い出を大切にし、未来に進む同窓の友として、いつも互いに学び合い、励まし合ってください。

日々の礼拝では、人間には自己中心を逃れられない弱さがあるということが語られてきました。そして、「イエス・キリスト」の存在の意味が示されました。「隣人を自分のように愛すること」はとても難しい。しかし、互いが自分の弱さを知って、神に愛されていることを知って、互いに愛することを知る。「ひとになれ 奉仕せよ」は、その結実であるということを学んだはずです。キリストの説く隣人愛に立つ、「人になれ 奉仕せよ」を実践していってほしいと思います。
卒業していく皆さん、いまは、新しい時代への踊り場なのだから、背筋を伸ばして遠くを見なさい。神様はあなたを愛しています。何があっても、決してあきらめてはいけません。