校長のつぶやき(95)入寮式の感想…地球村が大きくなります


掲載日:2024.05.03

校長のつぶやき(95)入寮式の感想…地球村が大きくなります

3年前、『校長のつぶやき』で寮を設置する理由を述べました。その寮がイメージとしている「地球村」にだんだん近づいてきました。今年で17の国・地域となりました。生活(生育)経験や国籍が違う生徒たちが60名を超えました!「このダイバーシティを!求めてきたんですよ!」と、思わず叫びました。一方で、日本国内出身でも同じことが言えるのが寮です。日本は一国でカウントしますが日本は広く北から南、西から東までと地域が違って、考え方からもダイバーシティがあります。

他校の校長先生と寮の話になると「『地球村』とはどういう意味ですか?何が目的ですか?生徒募集のためですか?」と聞かれます。「生徒募集のためですか?」には真剣に応える気持ちが失せてしまいますが、「『地球村』が目指すのはダイバーシティの環境」が答えです。人口縮小の進む未来の日本を考えれば、「一条校」*注でも国際環境への対応力を養うことが必要です。

私はある経験から20年来、教育に必要なこととして強く感じていることがあります。それは、今も子どもたちの心の深いところに形成される、封建時代から続く「村」意識や目線、そして根拠のない日本人としての不思議な全体的優越感・・・です。教員の感覚も含めてですが。

『校長のつぶやき』(48)では、留学生(「期間留学生」と編入で卒業を目指す「国際生」)と生活を共にして学び、日本語と英語でのコミュニケーション力を育てることの意義を述べました。インターナショナルな場面での理解力、意思疎通力、ソリューションの提案力のタネを育てること。学校でアカデミックな知識や基本的な学力を習得することはもちろんですが、通用するコミュニケーション力とコミュニケーションへの意欲そのもの(マインド)を身につけること。これからそれが大事です。

この2年で海外駐在家庭からの入学生が増えました。嬉しいことです。海外生活の経験をベースにしながら将来の進路に何かを求める意欲。ダイバーシティが加速します。海外という生育環境の違いは様々、異文化理解の仕方の違いも様々です。入学の動機や高校生活への夢を聴くと、そうした経験が将来の進路の決め方にも大きな影響があることを感じます。一方、ほぼ共通する学校環境や教育観のなかで育ってきた地元の小学校からの本校中学入学生にとっては、高校からの入学生との出遭いがこれまでの視野を拡げるチャンスになります。また高校入学生にとっても同様で、抱いている日本人としての漠たるアイデンティティが現実社会と衝突し、新たな視野を意識する必要に気づかされます。

また、日本の子どもたちにとっては留学生との出遭いも視角の拡大へのチャンスです。だんだんと日本語力をつけ、日本文化や風習を理解し、留学で体験することの楽しさを彼らの存在そのもので示してくれます。彼らが帰国するとき全校生徒の前で語るお別れの挨拶は圧巻です。日本育ちの子どもたちは圧倒されます。来日のときとは比べものにならない流暢な日本語で、留学生活で経験した世界観を自分の将来に絡めて語るスピーチが力強いからです。母国と日本とで世界を跨ぐ(inter-nation)経験をするというのはこういうことなのだと感じ入るのは生徒だけではありません。教師もです。

多くの生徒に在学中に海外生活と海外の教育環境の中での学びを経験してほしいと思います。が、それぞれに適齢期もあることは十分承知です。ですから、高校入学からの寮設置で小さな地球村の意味が出てくるわけです。日本は全国民が水準の高い教育を受けています。実際、OECDの直近の学力比較でも平均点で日本の高校生は「学力」ではけっして劣っていません。しかし、ダイバーシティには圧倒的に不慣れです。生活や活動の中で様々な違いを知る。ダイバーシティの環境で、それまでの自分の中にある「当たり前」や「普通」を考え直す。こうした機会を増やしたいと考えています。寮はその環境づくりなのです。横浜市内、神奈川県内在住でも、入寮(高校から)は状況によっては可能としているのもそういう意味からでもあります。

*「一条校」:学校教育法の第1条で定める教育施設(学校)の種類およびその教育施設の通称。